第12回:ストレングスを見つける目。AIに「強み」を抽出してもらう技術

いよいよ第2フェーズも深まってきました。 前回は、通所されている方の「アンビバレントな揺れ(葛藤)」など、目に見える行動の裏にある心理的な背景をAIと整理する方法をお伝えしました。

今回は、支援の視点をさらに大きく反転させます。 テーマは、「ストレングス(強み)を見つける目」です。課題や苦手なことではなく、その人が持つ「力」に光を当てるAI活用法をご紹介します。

苦手なことの克服は、支援量もハードルも高い

就労継続支援B型の現場で支援計画を立てる際、私たちはつい「できないこと」「苦手なこと」に目が行きがちです。「すぐに諦めてしまう」「こだわりが強すぎる」など、課題を並べて「これをどう克服させるか」を考えてしまうことはありませんか?

しかし、現場の実感として強く思うのは、「苦手なことの克服には、ご本人にとって失敗を繰り返すリスクがあり、非常に高いハードルがあります。スタッフ側にも作業支援や心理支援に相当な支援量が求められる」ということです。 結果として、双方が疲弊してしまい、行き詰まりを感じてしまうことも少なくありません。

やはり一番の近道は、「その人の強みや得意なことから活動してもらうこと」です。得意なことであれば、適度な支援量で本人の自信が育ち、結果的に良いサイクルが生まれやすくなります。


疲弊した現場では「強み」が見えなくなる

頭では「強みを活かすのが一番」と分かっていても、現場は日々動いています。 例えば、全国の就労継続支援B型の現場で非常に多く、かつスタッフが深く悩むのが「就労継続支援B型と生活介護の『狭間』にあるニーズ」です。

「作業ペースが極端にゆっくりで、就労継続支援B型の生産活動にはついていけない。でも、生活介護に行くことは本人の『働きたい』というプライドが許さない」

こうした「どちらの枠組みにもスッキリ収まらないケース」に直面し続けると、スタッフも焦りや戸惑いから、「困った行動」や「できないこと」ばかりに目が行きがちになります。感情が揺さぶられている状態では、「こんな良いところもあるよね」と視点を切り替える(リフレーミングする)のは、プロであっても実は非常に難しいものです。

そんな時こそ、「先入観も疲労もない、AI」の出番です。 私たちがネガティブに感じている事象や、行き詰まっている葛藤を、極めて客観的に、そして専門的に「肯定的な意味(ストレングス)」へと変換してもらうのです。


【実践】狭間の葛藤を「ストレングス」に翻訳する

サービス管理責任者として、スタッフから上がってきた「困った報告」をAIに投げ、強みを抽出してもらうプロンプト(指示文)を作ってみましょう。

【AIへの相談例(プロンプト)】 私は就労継続支援B型のサービス管理責任者です。スタッフから、通所されているある方について以下の報告が上がってきました。

・「作業ペースが極端に遅く、一般的な生産活動にはついていけません。生活介護の利用を勧めても、『ここで働きたい』という強いプライドがあり、受け入れません」 

・「スタッフも、生産性という物差しで測れないこの方に、どう支援目標を立てていいか悩んでいます」

福祉専門職として「ストレングス(強み)視点」で支援を行いたいと考えています。上記の行き詰まった状況をリフレーミング(肯定的な意味への捉え直し)し、作業の量やスピード以外で、この方が事業所内で発揮できる「見えない強みや役割」のアイデアを3つ提示してください。

 

AIが映し出す「隠れた才能と役割」

この問いかけに対し、AIは例えば以下のような「強み」を抽出してくれます。

  1. 「ここで働きたい」というプライドの強み →「その強い意志自体が、ご本人の持つ『生きるエネルギー』の証拠です。現状に諦めず、社会と繋がりたいという強烈なモチベーションを持っていることは、最大のストレングスと言えます。」

  2. 「スピードが遅い」ことの強み →「スピードを求められない『時間をかけても丁寧にやり遂げる性質』を活かし、事業所に不可欠だけれど急ぎではない裏方の仕事(例:道具の消毒や整理整頓)の『専門の責任者』として任命することで、その方ならではの確固たる役割と居場所を作れる可能性があります。」

  3. 「見えない役割(存在意義)」としての強み →「その方のゆっくりとしたペースが、周囲の『急ぎすぎてパニックになりがちな他の利用者』のペースメーカーとなり、空間全体に安心感を与える役割として機能している可能性があります。」

いかがでしょうか? AIというフィルターを通すだけで、「枠組みに合わない困ったケース」が、「その人なりの歩幅で事業所に貢献する、揺るぎない意志を持った仲間」へと反転しました。


強みが見えると、支援の空気が変わる

AIが抽出してくれたこのストレングスを、今度はスタッフ間のカンファレンスに持ち込みます。

会議では、「あの『働きたい』って意志の強さは凄いよね。じゃあ、急がなくていい、あの作業の『責任者』としてお願いしてみようか」という、非常に前向きでクリエイティブな議論へと変わっていきます。 支援の空気が変われば、ご本人への接し方も変わり、事業所全体の雰囲気も必ず明るくなります。

AIは、私たちの「疲れた目」をリセットし、対象者の輝く部分を再発見させてくれる最高の相棒です。ぜひ、日々の事例検討に、AIを使った「ストレングス探しの壁打ち」を取り入れてみてください。

次回は、「第13回:専門用語を分かりやすく。利用者に伝わる言葉への『翻訳』SV」をお届けします。 私たちがつい現場で使ってしまう専門用語を、ご本人やご家族の心にスッと届く、温かく分かりやすい言葉に変換してもらうAI活用法です。どうぞお楽しみに!Next➤

Hidefumi Kikuchi/CPP


このブログの人気の投稿

公認心理師、AIと「対話」する!〜新しいアプローチへの挑戦〜

第26回:公認心理師の「思考や見立て」を学んだエージェントは作れるか

第22回:自動で情報を集める。福祉ニュースを毎朝届けるエージェント

【特別編】Google公式インタビュー公開!AIが読み解く「福祉現場のリデザイン」の真髄

第20回:指示を待たずに動く?「AIエージェント」が変える福祉の未来

第29回:人間とAIの役割分担。エージェント時代に求められる能力

第24回:複数のAIが会議する?「エージェント・ワークフロー」の衝撃

第23回:スケジュール管理の自動化。支援に集中するための秘書エージェント

第25回:知識を学習させる。事業所のマニュアルを記憶したエージェント

第21回:24時間365日、あなたの隣に。専属エージェントの育て方