第13回:専門用語を分かりやすく。ご本人やご家族に伝わる言葉への「翻訳」SV

前回は、通所されている方の「課題」をAIと一緒にリフレーミングし、その人が持つ「ストレングス(強み)」を見つける方法をお伝えしました。

今回は、その見つけた強みやこれからの支援方針を「どう伝えるか」というテーマです。 就労継続支援B型の現場で、ご本人やご家族と心を繋ぐための、AIによる「言葉の翻訳」テクニックをご紹介します。

専門用語は、時に「冷たい壁」になる

サービス管理責任者として個別支援計画を作成する際、私たちは無意識のうちに福祉の専門用語を使ってしまいがちです。

「スモールステップ」「自己効力感」「自己肯定感」「アセスメント」「就労意欲の向上」「基本的生活習慣の確立」「自立・自律」……。

スタッフ間で情報共有をする上では、これらの言葉は非常に便利で正確です。しかし、いざその計画をご本人やご家族にお伝えする場面ではどうでしょうか? 専門用語が並んだ計画書は、ご家族には「突き放されたような冷たさ」を感じさせてしまうことがありますし、ご本人には「評価されている?」「なんだか難しい!」という不安を与えてしまう可能性があります。

せっかくご本人の幸せを願って立てた計画が、言葉の壁によって伝わらないのは、支援者として一番もどかしい瞬間ですよね。


AIを「言葉の翻訳スーパーバイザー(SV)」にする

そこで頼りになるのが、AIの客観性と豊かな語彙力です。 AIに「支援者の専門的な意図はそのままに、温かく、相手に伝わる言葉に翻訳してほしい」と指示を出すのです。

まずは、【ご家族に向けた説明】の翻訳例を見てみましょう。

【AIへの相談例(プロンプト)】 私は就労継続支援B型のサービス管理責任者です。通所されている方のご家族に向けて、今後の個別支援計画の方針を説明する文章を作成しています。 以下の【専門的な支援方針】を、ご家族が読んで「安心できる」「前向きになれる」ような、温かく分かりやすい日常的な言葉に翻訳してください。

【専門的な支援方針】 「集中力の持続が課題であるため、作業工程をスモールステップ化し、成功体験を積ませることで自己効力感の向上を図る。また、他者交流の場面ではソーシャルスキルトレーニング(SST)の視点を入れ、対人緊張の緩和を目指す。」

【AIが導き出す「温かい言葉」の例】

「ご自身のペースで無理なく取り組めるように、作業を少しずつ分かりやすい手順に分けてご用意しますね。『できた!』という実感を大切にしながら、少しずつ自信に繋げていければと考えています。また、周りの方とのお話に少し緊張されることもあるかもしれませんが、リラックスして過ごせるような声かけやサポートをスタッフが一緒に行っていきますので、どうぞご安心ください。」

いかがでしょうか。支援の意図は全くブレていませんが、受け取る側の印象は「評価されている」から「一緒に伴走してくれる」へと大きく変わります。


ご本人へ「個別支援計画(原案)」の翻訳

そして、さらに重要なのが【ご本人への説明】です。 個別支援計画は、誰のためのものか。言うまでもなく、ご本人のためのものです。ご本人が読んで「これならできそう」「自分のことを分かってくれている」と納得できなければ、本当の意味での支援はスタートしません。

行政用語になりがちな目標を、AIにご本人向けの言葉に翻訳してもらいましょう。

【AIへの相談例(プロンプト):ご本人向け】 以下の個別支援計画の目標を、通所されているご本人に直接説明するための文章に翻訳してください。 専門用語や評価するような言葉は一切使わず、ご本人が「明日から通所するのが少し楽しみになる」「安心できる」ような、温かくて肯定的なトーンでお願いします。

【計画書の目標】 「生活リズムの安定化を図り、週4日の通所を定着させる。また、作業においては持続力を高め、離席回数を減らすことを目指す。」

【AIが導き出す「ご本人に響く言葉」の例】

「〇〇さん、これからの目標を一緒に確認しましょうね。 まずは、週に4日、ご自身のペースでここに来ることを目標にしてみませんか?〇〇さんが来てくれると、私たちもとても嬉しいです。 作業の時は、少しずつ長い時間座っていられるように、一緒に練習していきましょうね。疲れたらいつでも休憩して大丈夫ですよ。焦らず、少しずつ慣れていきましょう。」

 

言葉が変われば、関係性が変わる

「離席回数を減らす」と言われると萎縮してしまいますが、「一緒に練習していきましょう、疲れたら休憩して大丈夫ですよ」と言葉を添えられるだけで、事業所が「安心できる居場所」に変わります。

AIは、業務を効率化するためだけのツールではありません。 私たちの頭の中にある「支援者としての専門的な思考」と、「ご本人やご家族の心」を優しく繋いでくれる、優秀な翻訳家でもあります。

ぜひ、次回の個別支援計画の作成や、日々の支援記録を振り返る際に、AIを「言葉の翻訳SV」として活用してみてください。きっと、ご本人との関係性がもっと温かいものに変わっていくはずです。

次回(第14回)は、「公認心理師が考える、AIとの『対話』を通じた自己覚知」をお届けします。私たちが無意識に持っている支援のクセや感情の揺れを、AIという鏡を通して見つめ直す、より深いテーマに入っていきます。どうぞお楽しみに!Next➤

Hidefumi Kikuchi/CPP


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