第14回:公認心理師が考える、AIとの「対話」を通じた自己覚知
支援の「惑い」をどう見つめるか
対人援助職としてキャリアを積むほど、私たちは「正解」や「技術」を身につけていきます。パニック時のアプローチ、就労に向けたステップアップの道筋、個別支援計画の策定。
しかし、知識や経験が増え、一見淀みなく支援が進んでいるように見える時ほど、ふとした瞬間に自分の支援が「惑い(まどい)」に満ちているのを感じることはないでしょうか。
「なぜ、特定の利用者さんの何気ない一言に、これほど心が波立ってしまうのか」 「なぜ、良かれと思って出した助言が、どこか自分を正当化するための言い訳のように聞こえてしまうのか」
こうした「これでいいのか?」という心の微細な震えは、心理学的な文脈では「逆転移」や「投影」といった言葉で整理されます。しかし、現場の喧騒の中では、それらは単なる「疲れ」や「相手の課題」として片付けられがちです。
ですが、支援の質を真に決定づけるのは、手法(スキル)以上に、支援者自身の内面をどれだけ理解しているか、すなわち「自己覚知(セルフ・アウェアネス)」の深さに他なりません。
今回は、この極めて主観的で、時に孤独な作業である「自己覚知」に、感情を持たないAIをどう介在させるかについて深く考察します。
AIは「批判なき鏡」であり、高度な外在化ツールである
自己覚知において最大の障害となるのは、私たち自身の「防衛心」です。「自分は専門職なのだから、こんな未熟な感情を持つべきではない」という抑圧が、内省を浅くし、自分では気づきにくい側面を心の奥底に追いやってしまいます。
スーパービジョン(SV)を受ける際も、バイザーとの関係性によっては「有能な支援者でありたい」という心理が働き、無意識に事実を再構成してしまうことがあります。
しかし、AIとの対話にはこの「対人緊張」が存在しません。AIは私たちの感情も、情けない独占欲もジャッジせず、ただそこに在る現象として受け止め、言語化を助けてくれます。
AIとの対話は、自分の内側にある混沌とした「惑い」を外に放り出し、客観的に眺める「外在化」のプロセスそのものなのです。
【実践】内省を深めるための「AIミラーリング・プロンプト」
専門職として、自身のバイアスや感情のクセを浮き彫りにするための具体的な活用法を提案します。ポイントは、AIに単なる慰めを求めるのではなく、心理職のスーパーバイザーとしての役割を与え、「複数の仮説」を提示してもらうことです。
【AIへのプロンプト例】 私は就労継続支援B型のサービス管理責任者です。本日、ある利用者への対応で強い不全感と、言いようのない苛立ちを覚えました。この「惑い」を自己覚知の材料とするため、以下の状況を分析し、私の中に潜むバイアスや無意識の価値観について、心理学的な視点から2つの仮説を立ててください。
【状況と感情の記録】 Aさんは作業訓練中、何度も指示を確認しに来ます。最初は丁寧に対応していましたが、5回目を超えたあたりで「まずは自分でやってみましょう」と突き放すような口調になってしまいました。その瞬間、Aさんの表情を見て、罪悪感と共に「なぜこれほど疲弊するのか」という感情が湧きました。
【分析へのリクエスト】 私が「依存」や「自立」に対してどのような価値観を持っているか、また私の「願望」がどう影響しているか、客観的にフィードバックしてください。
鏡に映し出される、支援者の「理想」と「脆さ」
この問いかけに対し、AIは例えば以下のような、冷徹でありながらも慈愛に満ちた視点を返してきます。
「ケアの全能感」という惑い 「『自分の支援で相手を自立させなければならない』という強い責任感が、Aさんの依存的な行動によって脅かされ、無力感への防衛として怒りが生じている可能性があります。」
「境界線の曖昧さ」というバイアス 「あなたはAさんの不安を、自分自身の不安のように引き受けすぎてはいませんか?相手と自分の境界線が曖昧になることで、Aさんの停滞を自分自身と同一視し、自己嫌悪に陥っているかもしれません。」
これらの指摘は、時に痛みを伴います。しかし、AIという「人間ではない存在」から提示されることで、私たちは過度に傷つくことなく、「確かにその傾向があるかもしれない…な…」と一歩引いて自分を観察できるのです。
専門性の再発見:AIを「鏡」として使いこなす
自己覚知とは、自分のダメなところを見つけて反省することではありません。自分の「心の形」や「惑い」、「危うさ」を知ることで、支援の現場で起きる現象に飲み込まれず、「あぁ、今自分の中にあの惑いが出ているな」とメタ認知できるようになることです。
AIという鏡を通じて自分のバイアスに気づくことができれば、次に Aさんが指示を確認しに来た時、あなたは「正論」だけではなく「余白」を持って関われるかもしれません。
「彼は今、私という安全基地を確認することで、なんとか立っていようとしているのだな」と。
AIは答え(正解)を教えてくれるツールではありません。私たちが自分自身の内面を探索し、その『惑い』の中にこそある支援の糸口を見つけ出す。そのための大切な『対話の場』なのです。
第2フェーズの折り返し地点となる次回(第15回)は、この自己覚知をさらに一歩進め、「記録の質を上げる。AIに客観的なフィードバックをもらう」というテーマでお届けします。どうぞお楽しみに!Next➤

