第15回:記録の質を上げる。AIに客観的なフィードバックをもらう
支援員は「時短」、サビ管は「AI分析」。クラウド記録を個別支援計画に活かす安全な連携術
現場の「点」の記録を、支援の「線」に繋げるために
就労継続支援B型の現場は、常に動いています。支援員にとって最も大切なのは、利用者と向き合う時間であり、記録はその合間を縫って行われる「鮮度が命」の作業です。近年、タブレットやスマートフォンを活用したクラウド記録ソフトの普及により、現場の入力は劇的にスピードアップしました。
しかし、サービス管理責任者の視点に立つと、新たな悩みが浮上します。モニタリングや個別支援計画更新の時期、目の前にあるのは数ヶ月分の「断片的な短文記録」の山です。「今日は作業を頑張りました」「少し疲れが見えましたが、休憩して再開しました」……。
こうした「点」でしかない日々の記録から、長期・短期目標に対する客観的な進捗を読み取り、アセスメントへと昇華させる作業には、膨大な時間と精神力が必要とされてきました。
今回の記事では、この「現場のスピード感」を維持しつつ、AIを「分析官」として活用することで、記録の質を劇的に高め、根拠のある目標設定に繋げる運用フローを提案します。
「入力は直感的に、分析は論理的に」という役割分担
福祉現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の失敗例の多くは、現場の支援員に高度な記録術や複雑なシステム操作を強いてしまうことにあります。
しかし、本来のDXとは「人間が楽になり、支援の質が上がること」であるはずです。
そこで私が提案するのは、明確な役割分担です。
支援員: クラウドシステムやLINE連携などを使い、今まで通り「短文・直感的・スピード重視」で入力を続ける。
サビ管: 蓄積されたデータを抽出し、AIを使って「目標に対する進捗」を構造化・分析する。
この役割分担により、現場の負担を増やすことなく、サビ管は「点」の記録を繋ぎ合わせ、利用者の変化を「線(推移)」として捉え直すことが可能になります。
【重要】専門職としての鉄則:個人情報の匿名化
具体的な分析手法に入る前に、絶対に避けては通れないのが「個人情報の保護」です。
ChatGPTなどの外部AIを利用する際、利用者の実名や詳細すぎる住所、特定の固有名詞をそのまま入力することは、専門職としての倫理に反します。
AIを活用する際は、必ず以下の手順を踏んでください。
クラウドシステムから対象期間の記録をCSV形式などで出力する。
Excel等の置換機能を使い、「A様」「B氏」のように匿名化する。
固有の施設名や地名なども、一般的な名詞(例:「近隣の公園」「協力企業」)に書き換える。
この「匿名化のひと手間」こそが、テクノロジーを安全に、かつ堂々と支援に活用するための専門職としての矜持(きょうじ)です。
実践:モニタリングと目標達成度をAIで可視化する
匿名化した数ヶ月分の記録をAIに読み込ませ、現在の個別支援計画に掲げた目標と照らし合わせます。ここで重要なのは、AIに「評価」を丸投げするのではなく、「根拠となる事実の抽出」を依頼することです。
【サビ管用:モニタリング支援プロンプト例】 私は就労継続支援B型のサービス管理責任者です。以下の【半年間の支援記録】(匿名化済み)を分析し、現在の【個別支援計画の目標】に対する進捗を整理してください。
【個別支援計画の目標】
長期目標:安定して週5日通所し、一般就労への意欲を高める。
短期目標:①作業中の集中力を30分維持する。②疲労時に自ら休憩を申し出る。
【AIへの指示】
短期目標①②に関連する具体的なエピソードを、記録の中から日付とともに抽出してください。
半年前と比較して、変化や成長が見られる「ストレングス」を3点挙げてください。
次期の目標設定に向けて、改善が必要な「環境要因」や「支援の工夫」を提案してください。
AIは、人間が見落としがちな微細な変化を拾い上げます。「4月は休憩の申し出がゼロでしたが、5月以降は月平均3回、自発的に発信できています」といった客観的な数字や事実が示されれば、モニタリング報告書の説得力は格段に増し、次期計画の目標設定もより精緻なものになります。
結びに:記録は「書くため」ではなく「活かすため」にある
記録の質を上げるとは、立派な文章を書くことではありません。日々の観察や「気づき」の積み重ねを、利用者のより良い未来を描くための「根拠」に変えていくことです。
AIをサビ管の「優秀な分析助手」として活用することで、私たちは事務作業の迷宮から解放され、利用者との対話や、よりクリエイティブな支援の組み立てに時間を使えるようになります。
次回(第16回)は、さらに踏み込みます。「支援の行き詰まりを感じたら。AIと新しいアプローチを模索する」。客観的な記録分析の先にある、具体的な「支援の壁」をどう突破するか。AIと共に考える会議の手法を探ります。Next➤

