第16回:支援の行き詰まりを感じたら。AIと新しいアプローチを模索する

支援の「膠着状態」がもたらす疲弊

就労継続支援B型の現場で日々ご本人と向き合っていると、どんなに丁寧にアセスメントを行い、緻密に個別支援計画を立てても、どうしても支援が前に進まなくなる時期があります。

「何度説明しても、作業の手順を自己流に変えてトラブルになってしまう」 「ある時期から突然、休憩室から出てこなくなってしまった」

こうした「行き詰まり(膠着状態)」に直面した時、私たち支援者は無意識のうちに「これしかない」という思い込みにとらわれがちです。「もっと分かりやすく説明しなければ」「もっとスモールステップにしなければ」と、今までと同じアプローチの「強度」だけを上げてしまい、結果としてご本人もスタッフも疲弊してしまう……。そんな経験はないでしょうか。

行き詰まりを感じた時に本当に必要なのは、努力の量ではなく「視点の切り替え」です。今回は、AIを「全く新しいレンズ」として活用し、支援のブレイクスルーを図る方法をご紹介します。


AIに「別の理論」という光を当ててもらう

自分たちだけでカンファレンスをしていると、どうしても「事業所の常識」や「これまでの成功体験」の枠から抜け出せません。そこで、AIに「現在の膠着状態を、全く別の専門的な角度から解釈し直してほしい」と依頼(プロンプト)するのです。

【AIへの相談例(プロンプト)】 私は就労継続支援B型の公認心理師・サービス管理責任者です。以下のケースにおいて支援の行き詰まりを感じています。

【現状】 利用者のAさんは、これまで真面目に作業に取り組んでいましたが、最近ちょっとした手順の変更をきっかけに、作業を拒否して休憩室から出てこなくなりました。スタッフが「焦らなくていいですよ」「少しだけやってみませんか」と優しく励ましても、耳を塞いで固まってしまいます。

【依頼】 現在の「スモールステップによる励まし」というアプローチが機能していません。この状況について、心理学や脳科学の知見を用い、これまでとは全く異なる3つの新しいアプローチ(仮説)を提示してください。


AIが提示する「新しいレンズ」の例

このプロンプトに対し、AIは感情に流されることなく、学術的な引き出しから以下のような新しい視点を提示してくれます。

  1. 自律神経系の視点からのアプローチ 「Aさんの状態は、単なる『拒否』ではなく、過剰なストレスから身を守るためにシャットダウン(凍りつき)を起こしている状態かもしれません。この場合『励まし(言語的アプローチ)』は逆効果です。まずは言葉をかけず、本人が安心できる環境(静かな空間、心地よい温度)を物理的に整え、神経系が『ここは安全だ』と感知するのを待つアプローチが有効です。」

  2. 感覚情報処理の視点からのアプローチ 「手順の変更に伴い、Aさんが処理しなければならない『視覚・聴覚情報』が急激に増えたことで、脳がオーバーフローを起こしている可能性があります。作業への復帰を促すのではなく、手順書を極限までシンプルにする、あるいはイヤーマフを導入するなど、入ってくる感覚情報を制限するアプローチを検討してください。」

  3. 「役割の反転」によるアプローチ 「支援される側(作業をする側)というプレッシャーが負担になっているのかもしれません。あえて本人の得意なこと(例えば、休憩室の雑誌の整理や、備品の補充など)の『お願い(役割の付与)』をし、スタッフが『助かりました』と感謝を伝えることで、自己効力感を別の角度から回復させるアプローチです。」


💡 公認心理師の視点:「仮説」が支援者の心に余白を作る 支援が行き詰まると、私たちは焦りから「早く正解を出さなければ」と視野が狭まりがちです。AIが全く異なる複数の仮説を提示してくれる最大の価値は、正解を当てることではなく、支援者が「別の見方もあるかもしれない」という「認知的柔軟性」を取り戻せることにあります。支援者が「これしかない」という思い込みから解放されたとき、その心の余白は、必ずご本人にも良い影響として伝わっていきます。


「次の一手」があるという希望が、支援を変える

いかがでしょうか。AIの回答を見た瞬間、「なるほど、励ますこと自体がプレッシャーになっていたのか」「行動の問題ではなく、神経系の反応かもしれない」と、ハッとさせられることがあります。

重要なのは、AIの出した仮説が100%正解である必要はないということです。 「もしかしたら、別の理由があるのかもしれない」と気づき、新しいアプローチ(次の一手)の選択肢を手に入れること。それだけで、支援者の心に「まだやれることがある」という希望と余裕が生まれます。

そして不思議なことに、支援者が余裕(心の余白)を取り戻すと、その安心感は非言語的なメッセージとして確実にご本人に伝わり、膠着状態がふっと解けることが多いのです。

AIは、閉ざされた支援の現場に「新しい風」を吹き込んでくれる、極めて優秀なブレインストーミングの相棒です。支援に行き詰まった時こそ、一人で抱え込まず、AIとの対話を通じて「新しいアプローチ」を探求してみてください。

次回(第17回)は、「バイアスに気づく。AIとの対話で見直す自分の支援スタイル」です。私たちが無意識に持っている「支援者としての偏り」に、どうやって気づいていくのか。さらに内省を深めていきます。Next➤

Hidefumi Kikuchi/CPP

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