第17回:バイアスに気づく。AIとの対話で見直す自分の支援スタイル

経験がブレーキになる時。実習生に向けられた、あの「笑顔」の正体

就労継続支援B型の現場で長く働いていると、ふと自分の立ち位置について深く考えさせられる瞬間があります。

それは、大学からの実習生や、新しく入った年齢の近い若い支援者に対して、利用者さんが驚くほど打ち解け、私たちが普段見たこともないような笑顔で饒舌に語り合っている姿を見た時です。

「何年も担当している私には、あんなにフランクに話してくれないのに……」 少しの寂しさを感じつつも、私たちはハッと気づかされます。実習生たちは「支援しなければ」「評価しなければ」という力みがなく、ただ目の前の人をひとりの人間として純粋な好奇心で受け止めています。

一方、私たちは長年培ってきた「経験」や「専門性」という名のフィルターをかけ、無意識のうちに相手との間に見えない壁(ブレーキ)を作ってしまっているのです。


私たちは必ずバイアスをかけている

支援者も人間である以上、完全に客観的になることは不可能です。「この診断名だからこうだろう」「昨日も失敗したから今日もダメだろう」という過去の経験や知識が、無意識のフィルター(バイアス)を作ります。

特に、自分の「支援スタイル(得意なやり方、価値観)」が確立されてくる中堅層ほど、このバイアスは固定化しやすくなります。良かれと思って積んできた経験が、逆に利用者の可能性を狭めてしまうリスクがあるのです。


現場に潜む、代表的な3つの「認知バイアス」

心理学の観点から、支援現場で私たちが特に陥りやすい3つの認知バイアスを挙げてみましょう。

  1. 確証バイアス: 「Aさんは意欲が低い」と一度思い込むと、作業をサボっている姿ばかりが目につき、実は陰で頑張っている姿や小さな工夫をスルーしてしまう状態です。

  2. ハロー効果: 「挨拶がしっかりできる(目立つ長所)」というだけで、「作業も正確にこなせるはずだ」と全体を高く評価しすぎてしまう、あるいは一つの失敗で「全てダメだ」と評価してしまう状態です。

  3. 現状維持バイアス: 「今までこのやり方でトラブルがなかったから」と、本人が成長しているにもかかわらず、新しいステップ(一般就労に向けた実習など)を提案するのを無意識に避けてしまう状態です。


実践:AIを「バイアス・チェッカー」として使う

自分のフィルター(バイアス)に自分で気づくのは至難の業です。そこで、過去のしがらみも感情的な思い入れも持たないAIに、自分の記録やアセスメントをフラットに読み解いてもらいます。

【AIへの相談例(プロンプト)】 私は就労継続支援B型のサービス管理責任者です。以下の【Bさんに関する私のアセスメント】を読み、公認心理師の視点から査読してください。

私の文章の中に「確証バイアス」や「現状維持バイアス」などの認知の偏りが潜んでいないか指摘し、より客観的でフラットな視点に書き換えるためのヒントを3つ提示してください。

【Bさんに関する私のアセスメント】 「Bさんは集中力がなく、すぐに作業を投げ出してしまう。声をかけても生返事で、働く意欲が感じられない。現在の単調な作業も取り組めておらず、新しい作業を任せるのは時期尚早であり、現状の作業を継続させる。」

AIは、「『意欲が感じられない』は主観であり、確証バイアスが働いている可能性があります」「『時期尚早』と判断するのは、現状維持バイアスによる安全策の可能性があります」と、痛いところを冷静に突いてくれます。


バイアスを「無くす」のではなく「気づく」こと

優れた支援者とは、「バイアスが全くない人」ではありません。「自分にはバイアスがあるかもしれない」と常に立ち止まれる、自己覚知(自分のことを知ること)ができている人です。

AIという客観的なパートナーを持つことで、定期的に自分の「支援のクセ」をメンテナンスし、経験という武器と、実習生のような「初心」を自由に行き来する。それこそが、利用者の本当の笑顔を引き出すための第一歩になるはずです。

次回(第18回)は、倫理とAI。専門職として「魂」を込める作業とは。についてお話しします。お楽しみに!Next➤

Hidefumi Kikuchi/CPP

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