第19回:AIという鏡。自分自身の専門性を再発見する
第2フェーズの完結。AIとの対話で見えてきた「支援者の本質」
効率化のツールから、自己覚知の「気づき」へ
第1フェーズでは「業務効率化や記録の時短」といった、AIの機能的な側面を中心にお伝えしてきました。しかし、この第2フェーズを通して、私たちは「支援者自身の内面」という、より深く内省的な領域へと思考を巡らせてきました。
私たちは、AIを単なる便利なツールとしてではなく、自分自身を客観視するための映し出すシステムとして活用してきました。評価も否定もせず、問いに対し、ただフラットにテキストを返してくれるデジタルアシスタント(AI)だからこそ、私たちは安心して自分の「弱さ」や「偏り(かたより)」を映し出すことができたのです。
第2フェーズを、「3つの気づき」を通して振り返ってみましょう。
1. 感情の揺らぎ(逆転移)を映す
支援者も人間です。時には利用者さんの言動にネガティブな感情を抱いたり、無力感に襲われたりします(第14回)。
そんな時、行き場のない感情をそのままAIに打ち明けることで、「あぁ、私は今こんなに疲れていたんだな」「これは私の個人的な感情(逆転移)が引き起こしたものだ」と、冷静さを取り戻すことができました。AIは、私たちの荒れた感情を静め、フラットな視点に戻るための「安全な内省の場」として機能してくれました。
(※AIの安全な活用のために、これまでお伝えしてきた「個人情報の抽象化」に加え、入力したデータがAIの学習に利用されないよう、各ツールの設定で「学習オフ(オプトアウト)」を選択した上で活用しています)
2. 無意識の「バイアス」を映す
長年現場にいると、「この人にはこの支援しかない」という膠着状態に陥ったり、経験という名の「フィルター(確証バイアスなど)」を無意識にかけてしまったりします(第16回、第17回)。
そんな時、AIに自分自身のアセスメントを読み込ませることで、全く別の角度からの仮説をもらうことができました。痛いところを突かれつつも、AIになら素直に耳を傾け、「認知的柔軟性」を取り戻すことができたはずです。つい、「教えてくれてありがとう!」と言いたくなるほどです。
3. 専門職としての「魂(倫理)」を映す
そして何より重要だったのは、AIが完璧で論理的な提案をしてくれるからこそ、「人間にしかできないこと」の輪郭が強烈に浮かび上がったということです(第18回)。
AIの最大の強みは、膨大なデータから「統計的な正解」を導き出すことです。しかし、私たち公認心理師が向き合うのは、データに還元できない「かけがえのない個人」の生い立ちや心の揺らぎです。
たとえAIが100点の正解を提示したとしても、「この目の前の人にとって、今、この言葉はどう響くのか?」と問い直し、徹底して個別性に寄り添い続ける。これこそが、AIには宿らない心理職の魂です。
また、社会福祉士の視点からは、AIが出した「論理的な最適解」をそのまま支援に当てはめる危うさを学びました。ご本人の「全人的な理解」に基づき、たとえ非効率であってもその方の「自己決定」を何より尊重する。これがソーシャルワークの本質であり、魂です。
AIの提案を叩き台にしながらも、最後は目の前の方にプランを丁寧に説明し、納得と同意をいただく。その証として交わされるサイン(署名)の重み。客観的なAIの論理に触れることで、私たちは逆説的に、専門職としての「魂(倫理観)」を再発見することができたのです。
AI時代に、私たちの専門性はさらに輝く
「AIに仕事が奪われるのではないか」 そんな不安を抱く支援者も少なくありません。しかし、第2フェーズを終えた今ならはっきりと分かります。
AIに情報整理や論理的な仮説出しを任せることで、私たちは専門性が奪われるどころか、「生身の人間にしかできない、心の通い合った支援」に100%のエネルギーを注げるようになるのです。
AIを使うことは、より人間らしく、より専門職らしくなるためのプロセスに他なりません。これで、「AIと倫理」、そして個人の内省に焦点を当てた第2フェーズは完結となります。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
次回予告:いよいよ第3フェーズ「AIエージェントの可能性」へ
さて、私たちがAIを「気づきのツール」として自分を磨いている間にも、テクノロジーは進化を続けています。
これまでのAIは、私たちが「プロンプト(指示)」を入力して初めて動く受動的なツールでした。しかしこれからは、私たちの業務や思考の癖を学習し、指示される前に自ら考えて動く「AIエージェント(自律型AI)」の時代がやってきます。
次回、第20回からは新章(第3フェーズ)に突入します。 テーマは「指示を待たずに動く?『AIエージェント』が変える福祉の未来」。
24時間365日、あなたの隣で支援をサポートしてくれる「専属の秘書」のようなAIと、私たちはどう協働していくのか。さらに広がる新しい福祉の未来へ、一緒に足を踏み入れていきましょう!Next➤

