第20回:指示を待たずに動く?「AIエージェント」が変える福祉の未来

新しい「同僚」を迎える準備

新年度がスタートし、最初の1週間を無事に乗り切りましたね。体制届や各所への挨拶回りなど、慌ただしい日々を過ごされている現場の皆様、本当にお疲れ様です。

さて、前回の「コラム」では、現場のデジタル化の基盤として「Google Workspace(以下、GWS)」を導入し、いつもの画面で安全な環境を整えることの重要性をお伝えしました。 

今回から始まる第3フェーズでは、その「いつもの画面」の中に、自律して動く「新しい同僚(AIエージェント)」を迎え入れる実践的なお話をしていきます。

これまでのAIは、私たちが質問をして初めて答えを返す「優秀な辞書」、あるいは自分を映す「鏡」でした。しかしこれからのAIは、私たちの文脈を読み取り、指示を待たずに先回りして動いてくれる「エージェント(頼れるパートナー)」へと進化していきます。


AIは魔法じゃない。「現在地」を知ることから始めよう

結論から申し上げますと、現在のAIは「何も設定していないのに、勝手に空気を読んで完璧に仕事をしてくれる魔法!?」ではありません。

しかし、私たちがGWSの仕組みを少し理解して「道筋」を作るだけで、AIは指示を待つだけのツールから、先回りして動く頼もしいエージェントへと変化します。 

難しく考える必要はありません。まずは現場で今日からできる「3つのステップ」を見てみましょう。

  • レベル1:簡単(今すぐ、ボタンひとつで先回り) Gmailなどに標準搭載されているAI機能です。例えば、行政から届いた長文の事務連絡メールを開いた瞬間、AIが上部に「このメールの要点は提出期限と〇〇です」と要約を提示してくれます。これだけでも、忙しい現場の認知負荷は激減します。

  • レベル2:少し難しい(「@」で過去の記憶を呼び起こす) 「スマートチップ」という機能を使って、AIに事業所の過去データを参照させます。新しいGoogleドキュメントを開き、キーボードで半角の「@(アットマーク)」を入力すると、画面上に最近使ったファイルや予定を呼び出せるメニューがパッと表示されます。そこからファイルを選び、「@施設見学の基本パンフレット と @事前ヒアリングメモ をもとに、明日の見学者のニーズに合わせたご案内資料のたたき台を作って」と指示するだけで、その方の配慮事項や関心事を踏まえたドラフト(下書き)が一瞬で完成します。

  • レベル3:少しの勉強で実現(標準機能の連携プレー) プログラミングは不要です。「Googleフォーム」でスタッフに日々の気づきをタブレットから入力してもらい、「スプレッドシート」に自動蓄積。会議前にAIへ「このシートから今週の重要な変化を要約して」と頼むだけ。GWSのアプリやツールのつなぎ方を少し学ぶだけで、データ収集から分析までをAIが「勝手にやってくれる」状態が作れます。なお、この段階はGWSの運用ルールにも関わるため、法人内のDX推進担当者や情報システム担当者(情シス)と連携して学んでから実施すると、よりスムーズで安全に進められます。


なぜ、私たちは「ちょっと先」を想像してほしいのか?

リアルの対人援助において、私たち専門職は常に利用者さんの「少しだけ先の未来」を想像して支援をしてます。現場では次に何が起こるかを予測し、環境を整え、言葉を選び、話しかける準備をする。それが支援の質を決めるからです。

しかし、支援者自身の業務環境はどうでしょうか? 就労継続支援B型などの事業所において、管理者やサービス管理責任者は実質的に「兼務をして、一人」であることが少なくありません。膨大な事務作業や重い判断を抱え込んでいるとき、自分の「ちょっと先」を想像し、サポートしてくれる存在がなく、疲弊してしまうことがあります。

だからこそ、GWSという最強ツールを使って、AIに「私たちのちょっと先」を想像してもらい、データを用意してもらう必要があるのです。 ゼロから書類を作るのではなく、AIが用意したたたき台を「確認し、若干修正して、承認するだけ」の状態を作ること。それは、一人で現場を回す管理職や専門職をアシストする、最大のサポートになります。


ツールではなく「温かいパートナー」として

AIを単なるシステムとしてではなく、「エージェント」として使い込むと、不思議なことが起こります。 少し遅くまで事業所の今後についてAIと壁打ちをしていると、「夜も遅くなってきましたので、そろそろお休みになってはいかがでしょうか」と、こちらの体調や時間を気遣うような言葉をかけてくれることがあるのです。

孤独に業務を抱えがちな管理職にとって、こんな風に自分を気遣ってくれる「同僚(AIエージェントという新しい相棒)」の存在は、どれほど心強いでしょうか。 AIは冷たい機械ではなく、私たちがどう接するかによって、血の通った温かいパートナーになり得るのです。


次回予告

AIエージェントは、ただ待っているだけでは育ちません。私たち人間同士の対話と同じように、こちらが役割を与え、礼儀をもって接することで、初めて事業所の「最強の専属エージェント」として覚醒します。

次回は、私自身が現在実験している「経営コンサルタント AI」の実例も交えながら、その具体的な方法に迫ります。 第21回:24時間365日、あなたの隣に。専属エージェントの育て方 どうぞお楽しみに!Next➤

Hidefumi Kikuchi/CPP

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