第27回:エージェントと共に働く。新しい「多職種連携」の形

「優秀な個人」から「チームの一員」へ 

これまで、事業所のマニュアルを記憶させたり、公認心理師としての「BPSモデル」のような専門的な思考(暗黙知)を身につけさせたりと、AIエージェントを育成する方法をご紹介してきました。

これらの設定を終えたAIは、もはや単なる便利な辞書ツールではありません。事業所のルールを理解し、専門的なアセスメントの視点を持った、優秀な「専門スタッフ」へと進化しています。

今回は、この優秀なAIエージェントを、実際の現場の「多職種チーム」の中にどう迎え入れ、共に働いていくのかというお話です。


現場のリアル:「多職種連携」の理想と、サビ管の孤独

就労継続支援B型などの現場では、生活支援員、職業指導員など、様々な視点を持つスタッフが働いており「多職種連携」が不可欠です。

しかし現実はどうでしょうか。日々の支援や作業対応、シフト調整に追われ、スタッフ全員がゆっくり集まって話し合う時間を取るのは至難の業です。

その結果、現場で起きるすべての疑問や相談が「サービス管理責任者(サビ管)」に集中してしまいます。スタッフからの「どうしましょう?」という声に常に追われ、頭の中で一人で情報を整理し、次々と指示を出さなければならない。サビ管は、多職種連携における「孤独なハブ(中継地点)」になりがちなのです。


新しい形:AIを「ハブ」としてチームに組み込む

ここで、育成したAIエージェントを「多職種連携のハブ」としてチームの真ん中に配置してみます。

現場スタッフは、悩んだときにサビ管にいきなり相談する前に、まずはスマホから「専門家AI」と壁打ち(相談)をするというフロー(業務の流れ)を作ります。

  • 【これまでの流れ】 スタッフが悩む → 直接サビ管に聞く(サビ管の業務が中断され、負担が集中する)。

  • 【新しい流れ】 スタッフが悩む → まずAIに相談し、BPSモデル等の視点で状況を整理する → 整理された情報とAIの提案を持って、サビ管に最終判断を仰ぐ。


【具体例】日々のカンファレンスが変わる

現場のスタッフが、ある利用者さんの今日の不調についてAIに相談し、その結果をサビ管に報告する場面を想像してみてください。

❌ Before(これまでの報告): 「今日、Eさんがずっとイライラしていました。明日はどう対応しましょうか?」 (※サビ管がゼロから原因を推測し、解決策を考えなければならない)

⭕ After(AIと壁打ちした後の報告): 「Eさんのイライラについて、AIと一緒にBPSモデルで整理してみました。環境の騒音(社会要因)か、昨日の睡眠不足(生物要因)が原因かもしれません。明日の作業は少し静かな席に調整し、まずは様子を見るという方針でどうでしょうか?」 (※サビ管は提案を確認し、承認または微調整するだけで済む)

サビ管は「ゼロから考える」のではなく、「整理された提案を承認する」役割へと変わります。これにより、精神的な負担と業務の中断が激減するのです。


公認心理師の視点:スタッフの「自己効力感」を育てるAI

この新しい連携の形は、単なる業務効率化ではありません。心理学的に見ると、スタッフの「自己効力感(自分にもできるという自信)」を育てる強力なアプローチになります。

AIという「いつでも相談できる安全な相手」がいることで、スタッフはただ答えを求めるのではなく、自分で仮説を立てて考える習慣が身につきます。

「自分たちでアセスメントし、解決の糸口を見つけられた」という経験の積み重ねが、現場全体の支援スキルを底上げし、心理的安全性の高いチームを作っていくのです。


おわりに:AIは「人を育てる同僚」になる

AIエージェントをチームに迎え入れるということは、サビ管や管理者の「分身(頼れる右腕)」を現場に配置するということです。

人間とAIが対立するのではなく、AIがスタッフの成長を優しくサポートし、最終的な温かい決断は人間(サビ管)が行う。これこそが、次世代の「多職種連携」の形ではないでしょうか。


次回予告と今後の展開

AIをチームの一員として迎え入れることで、現場は驚くほどスムーズに回り始めます。スタッフの自己効力感も高まり、良いことずくめのように見えます。

しかし、現場でAIを本格的に使い始めるにあたって、必ず直面する切実な問題があります。それは「利用者さんの個人情報をAIに入力しても、本当に大丈夫なの?」という疑問です。

次回は、このモヤモヤをスッキリ解消します。

  • 第28回:セキュリティとプライバシー。エージェント導入の壁をどう越える?

  • 第29回:人間とAIの役割分担。エージェント時代に求められる能力

どうぞお楽しみに!Next➤

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