第11回:事例検討や担当者会議の新しいカタチ。AIと多角的な視点を整理する

いよいよ第2フェーズの本格的な実践編です! 前回は、AIをスーパーバイザー(SV)として使うための「安心・安全なルール」をお伝えしました。今回は、実際の現場で直面する「リアルな悩み」をテーマに、AIとの壁打ちがどれほど私たちの視野を広げてくれるのかをシミュレーションしてみましょう。

事業所内でスタッフと行う日々の「事例検討」はもちろん、相談支援専門員や他機関を交えた正式な「サービス担当者会議」に向けて、自分の見立てを整理する事前準備としても、AIは非常に優秀なパートナーになります。


現場のリアル:アンビバレントな「浮き沈み」に戸惑うスタッフ

就労継続支援B型の現場で非常に多いのが、「過去の経験から自信を失っている」というケースです。

「もっと作業を頑張りたい、変わりたい」という前向きな気持ちと、「でも、また失敗して傷つくのが怖い」という恐怖心。この相反する2つの感情(アンビバレントな状態)が心の中でせめぎ合い、日によって意欲の「浮き沈み」として激しく表れることがあります。

昨日はすごく意欲的だったのに、今日は少しのミスで激しく落ち込み、周囲の励ましも拒絶してしまう……。 こうした状況が続くと、現場のスタッフも「どう声をかけたらいいか分からない」「本人のやる気の問題なのでは?」と戸惑い、支援の方向性がブレてしまいがちです。

ここで、サービス管理責任者としてスタッフにどう助言するか。あるいはサービス担当者会議でどう見立てを共有するか。 まずは、AIを壁打ち相手にして「多角的な視点」を整理してみましょう。


【実践】AIへ「視点の切り替え」をリクエストする

AIにお願いするのは「正解」ではありません。私たちが「見落としているかもしれない心理的な背景」を言語化してもらうことです。


以下のように、状況と「欲しい視点」をセットにして入力(プロンプト)してみます。

【AIへの相談例(プロンプト)】 私は就労継続支援B型のサービス管理責任者です。事業所内の事例検討に向けた壁打ちをお願いします。

【状況】 通所されているある方(過去の経験から自信を失っている状態)について。 「頑張りたい」という気持ちと「失敗が怖い」という感情が混在するアンビバレントな状態で、日によって作業意欲の浮き沈みが激しく、現場スタッフが声かけのタイミングや対応に戸惑い、疲弊しつつあります。

【依頼】 この状況について、スタッフの視野を広げ、本人の「浮き沈み」をネガティブに捉えすぎないためのヒントを、以下の3つの視点から整理してください。

  1. 本人の心理的防衛(自分を守るメカニズム)の視点

  2. 「波があること」を前提とした環境調整の視点

  3. 支援するスタッフ自身のメンタルケアの視点

 

AIがもたらす「ハッとする気づき」

この問いかけに対し、AIは例えば以下のような「専門的な視点」を整理して返してくれます(※実際のAIの回答を要約しています)。

  1. 【防衛メカニズムとして理解する】 「沈んでいる日は、決して怠けているわけではありません。『頑張りすぎて再び深く傷つくこと』から心を守るための、無意識のブレーキ(防衛)が働いている状態です。浮き沈みがあること自体が、本人が現状と必死に戦っている証拠とも言えます。」

  2. 【「調子の良い日」を基準にしない】 「スタッフは無意識に『調子の良い日』の姿をその人の本来のベースラインだと思い込みがちです。そのため、沈んだ日に『どうしたの?』と引き上げようとしてしまいます。『波がある状態こそが今のベースラインである』とスタッフ間で認識を合わせ、沈んだ日は『エネルギーを充電する日(スローペースな作業)』と割り切れる選択肢を用意しておくことが有効です。」

  3. 【スタッフが感情を引っ張られないために】 「利用者の気分の波にスタッフが同調してしまうと、支援者側が疲弊します。『今はアンビバレントな波の底にいるんだな』と、少し引いた客観的な視点(俯瞰:ふかん)を持つことで、スタッフ自身の心を守ることができます。」


AIの視点を「人間のチーム」で揉む

いかがでしょうか? 「本人のやる気の問題」という単一の視点から、「心を守るためのブレーキなんだ」「波があるのが今のベースラインなんだ」と視点が切り替わるだけで、スタッフの関わり方は大きく変わりますよね。

もちろん、AIの出力した意見が100%正しいわけではありません。 大切なのは、サービス管理責任者である私たちがこの視点を持ち帰り、「AIと壁打ちして、こんな視点が出たんだけど、具体的にどう活かせるかな?」と、スタッフ間の事例検討のテーブルに載せることです。

AIという「客観的な第三者」の意見をクッションにすることで、スタッフ同士の意見を促したり、フラットで建設的な議論が生まれやすくなります。そしてここで揉まれた意見は、サービス担当者会議で他機関に共有する際にも、非常に説得力のある見立てとなります。

次回は、支援の視点をさらに大きく反転させます。「第12回:ストレングスを見つける目。AIに『強み』を抽出してもらう技術」をお届けします。課題や苦手なことではなく、その人が持つ「力」に光を当てるAI活用法です。どうぞお楽しみに!Next➤

Hidefumi Kikuchi/CPP

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